コラム 人事の旬な話題

2026年02月13日
賃金制度が「使えない」のはなぜ?
~メンテナンス性を重視した報酬設計のすすめ~
1.せっかく作った賃金制度が
機能しない理由
「数年前に賃金制度を整備したが、もう使い物にならない」「号俸表を見直したいが、どこから手をつければいいかわからない」――
経営者や人事責任者から、こうした悩みを伺う機会が増えています。これは人事制度全般に共通することですが、賃金設計においても、自社のリソースとノウハウで維持・管理できる仕組みとなっている必要があります。特に小規模企業ほど、きちんと運用できないことをやろうとした結果、制度が形骸化してしまうケースが実に多いのです。
今回は、制度が形骸化してしまう典型的な課題と、メンテナンス性を高めるための実践的アプローチについて解説します。
2.小規模企業の賃金制度に見られる
典型的な課題
1)メンテナンス放置による
外部報酬水準との乖離
デフレ下で賃金水準がほぼ横這いであった過去20年程度は、一度号俸表を作ってしまえば十分事足りたかもしれません。しかし、賃上げ圧力が高まり、環境変化の激しい現在では、ごく短期でテーブルを書き換えていかないと、すぐに陳腐化してしまいます。小規模企業ではテーブル改定のノウハウがなく手を付けようがない、といった悩みもあるでしょう。
2)人件費制約から生じる人事評価の歪み
昇給や賞与の原資は、会社業績に応じて期ごとに変動するのが通常です。評価別の昇給表を作ったとしても、A評価が多すぎては昇給コストが嵩んでしまいます。そこで、評価を下方修正することで昇給コストを抑えるといった、昇給予算から逆算した形での評価調整が行われることになります。しかし、この作業は手間がかかるだけでなく、評価結果を捻じ曲げ、社員の納得性を損なうことにもなり兼ねません。
3)制度外の属人的処遇の未解消
自社なりに賃金テーブルを整備して報酬の適正化を図ろうと試みている事例も見受けられます。しかし、報酬分析を実施してみると、制度外の特権的処遇が未解消のまま残っており、新旧の仕組みが混在して複雑化しているケースが散見されます。
3.メンテナンス性を高める
実践的アプローチ
1)あえて賃金テーブルは作らず、
昇給表のみ作成する
小規模企業には、賃金テーブル(賃金表)は作らず、昇給表のみ作成するのが現実的です。具体的には、等級ごとに基本給の上限・下限(レンジ)を設定し、あとは評価に応じた昇給率(1等級のA評価なら3.5%など)を設定しておくだけです。賃金水準を見直すときには、レンジを調整するだけでよく、号俸表のように金額ベースでテーブルを組み直す必要はありません。若手中心に給与水準を改善したい場合にもシンプルな変更が可能となります。
2)予算内に昇給与を個人に反映できる
仕組みをつくる
評価を下方修正して昇給コストを抑えるのではなく、予算内に昇給を個人に反映できる仕組みを考える必要があります。例えば、昇給原資の総額を先に決め、評価分布に応じて自動的に配分される仕組みを導入することで、評価の歪みを防ぎつつ人件費コントロールが可能になります。
3)移行もシンプルでハマりやすい設計にする
小規模企業に適する賃金制度の要件は、メンテナンスが楽で、人件費コントロールが容易で、移行もシンプルでハマりやすい、という3つの要素が極めて重要です。複雑な号俸表や細かい評価ランクは、運用負荷を高めるだけでなく、制度移行時の混乱も招きます。シンプルな設計こそが、長期的に機能する賃金制度の鍵となります。
4.まとめと次のアクション
我々コンサルタントとしても、お客様の運用面での力量を深く考えずに、背伸びした設計を誘導してしまうリスクが常にあり、この点は誰しもが自省しなければならないところです。「世間一般的な人事制度」のフレームワークをそのまま自社に導入しようとするのではなく、自社のリソースとノウハウで維持・管理できる仕組みを選ぶことが、長期的な成功につながります。
まずは自社の賃金制度が「メンテナンス可能か」「人件費コントロールしやすいか」「移行しやすいか」の3つの視点で見直してみることから始めてみてはいかがでしょうか。