コラム 人事の旬な話題

2025年12月15日
M&A後の人事統合が失敗する理由
~戦略的シナリオと影響予測で成否が決まる~
1.人事統合の失敗が組織再編の効果を
台無しにする
「M&Aは成功したが、人事統合で躓いた」「統合後に優秀な人材が次々と辞めてしまった」――
組織再編やM&Aを経験した人事責任者から、こうした後悔の声を伺うことが少なくありません。財務・法務のデューデリジェンスは万全でも、人事面の統合シナリオが不十分なために、期待したシナジーが得られないケースが実に多いのです。
「人事制度の統合は後回しでいい」「とりあえず現状維持で様子を見よう」――こうした判断が、結果的に人件費の膨張、モチベーション低下、キーパーソンの流出を招き、再編効果を大きく損なうことになります。人事PMIにおいては、戦略に沿ったシナリオ策定と影響インパクトの予測が何より重要です。今回は、人事統合における典型的な失敗パターンと、成功に導くための実践的アプローチについて解説します。
2.人事統合で陥りがちな典型的な
失敗パターン
1)統合シナリオの不在による場当たり的対応
財務・法務のデューデリジェンスは実施しても、人事面の調査や統合シナリオの策定が不十分なまま再編を進めてしまうケースがあります。退職金債務、未払残業代、労務コンプライアンスといった潜在リスクを見落とし、統合後に想定外のコストや訴訟リスクに直面することになります。また、統合の方針やステップが明確でないため、現場は混乱し、社員の不安や不満が高まります。
2)影響インパクトの予測不足による人材流出
人事制度の統合は、処遇水準、評価基準、キャリアパスなど、社員の働き方や生活に直結する要素を変更することになります。統合によって誰がどのような影響を受けるのか、処遇が上がる層・下がる層はどこか、モチベーションへの影響はどの程度か――こうした影響インパクトを事前に予測・シミュレーションせずに統合を進めると、キーパーソンの離職や組織の士気低下を招きます。
3)移行措置の設計ミスによる不利益変更問題
統合後の人事制度が既存社員にとって不利益変更となる場合、適切な移行措置や経過措置を講じなければ、法的リスクや社員の反発を招きます。しかし、移行措置の設計が甘く、結果的に人件費が想定以上に膨らんでしまったり、逆に社員の納得が得られず労使紛争に発展したりするケースが散見されます。
3.成功に導く人事PMIの実践的アプローチ
1)戦略に沿った統合シナリオの策定
人事統合は、再編の戦略目的(コスト削減、シナジー創出、ガバナンス強化など)に沿って設計する必要があります。まず、人事デューデリジェンスで過去勤務債務や労務リスクを洗い出し、統合後の人件費、法的リスク、モチベーションリスク、運用リスクを評価します。その上で、統合の方針(完全統合か段階的統合か、処遇水準をどう調整するかなど)とステップを明確にしたシナリオを策定します。
2)影響インパクトの定量的シミュレーション
統合シナリオごとに、人件費への影響、社員ごとの処遇変動、モチベーションへの影響を定量的にシミュレーションします。例えば、給与テーブルを統合した場合に誰の給与が上がり、誰が下がるのか、賞与制度を変更した場合の総人件費の変動はどの程度か――こうした予測を事前に行うことで、リスクを最小化し、経営判断の精度を高めることができます。
3)移行措置と社員コミュニケーションの設計
不利益変更が避けられない場合には、適切な移行措置(調整給の設定、段階的な制度移行など)を設計し、法的リスクと社員の納得性の両立を図ります。また、統合の目的や背景、処遇への影響を丁寧に説明するコミュニケーション計画を策定し、社員の不安を軽減することが重要です。
4.まとめと次のアクション
人事統合は、組織再編の成否を左右する重要なプロセスです。財務・法務のデューデリジェンスと同様に、人事面でも専門的な調査と戦略的なシナリオ策定が不可欠です。統合シナリオの策定、影響インパクトの予測、移行措置の設計――これらを事前に丁寧に行うことで、再編効果を最大化し、人材流出や労使紛争といったリスクを回避することができます。
まずは自社の組織再編において、人事面のリスクと機会を専門家と共に洗い出し、戦略に沿った統合シナリオを描くことから始めてみてはいかがでしょうか。