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コラム 人事の旬な話題

2026年01月15日

報酬制度だけでは組織は変わらない

~「組織の成功循環モデル」が示す人事戦略の本質~

1.報酬を上げても成果が出ない、
その理由とは?

「十分な給与を払っているのに、期待する成果が出ない」「待遇を改善したのに、優秀な人材が他社に流出してしまう」――

こうした悩みを抱える経営者・人事責任者の方は少なくありません。報酬制度の見直しに力を入れても、なぜか組織のパフォーマンスが向上しない。その背景には、従業員エンゲージメントの本質的な理解不足があります。マサチューセッツ工科大学のダニエル・キム教授が提唱する「組織の成功循環モデル」は、エンゲージメントを高める上で何が最も重要かを示しています。

今回は、この理論を報酬制度の観点から読み解き、真に成果を生み出す人事戦略のあり方について考察します。

2.組織の成功循環モデルとは何か

1)グッドサイクルとバッドサイクルの違い

組織の成功循環モデルでは、「結果の質」を高めるためには、まず「関係の質」を高めるべきだと説きます。この「関係の質」こそが、従業員エンゲージメントの基盤となる要素です。グッドサイクルでは、メンバー間の相互理解を深めて一緒に考えるようになると(関係の質の向上)、自分で気づきや面白さを感じ(思考の質の向上)、自発的に考え行動するようになり(行動の質の向上)、結果として良い成果が生まれます(結果の質の向上)。そしてその成果が信頼関係を生み、さらに関係の質が向上していくのです。

2)結果を求めることから始めると失敗する

一方、バッドサイクルでは、結果を求めることから入ります。成果が上がらないと、一方的な指示や責任の押し付けが横行し(関係の質の低下)、自ら考えることなく受け身でしかなくなり(思考の質の低下)、必要最低限のことしかやらないので(行動の質の低下)、さらに成果が上がらないという負のスパイラルに陥ってしまいます。このサイクルでは従業員エンゲージメントが著しく低下し、離職率の上昇や生産性の低下を招きます。多くの企業が陥る「成果主義の罠」は、まさにこのバッドサイクルそのものです。

3.報酬制度に置き換えて考える

1)給与額アップだけでは悪循環を招く

この理論を社員の報酬に置き換えてみましょう。自社の給与水準が競合に劣るとして、給与額のアップに特化して対応しようとすると、社員の期待以上に給与が上がらなかったときに、まず関係性が悪化します。次第に思考レベルが低下し、前向きな行動も生まれず、成果も上がらないため、待遇アップも持続しないという悪循環になってしまうのです。金銭的報酬だけに頼る施策は、一時的な満足は得られても、持続的な従業員エンゲージメントの向上には繋がりません。

2)仕組みの共有が好循環を生む

逆に、給与額が劣るような状況下でも、自分自身で待遇アップできる仕組み(報酬制度)を相互に理解し、共に考える姿勢を示すことで関係性が高まります。すると当事者意識が強まり、チャレンジ行動が生まれ、高い成果を上げるようになります。そうすることで本人の待遇に繋がり、さらに信頼関係が強固になり、目標が高まり、良いアイデアが生まれるといった好循環のサイクルが回り出すのです。つまり、いくら報酬制度を改善しても、「関係の質」という従業員エンゲージメントの基盤が希薄な状態では、その効果は長続きしないということです。

4.まとめと次のアクション

報酬制度の改善は重要ですが、それだけでは組織の成果は最大化されません。十分な額の報酬を与えているはずなのに見合う成果を出さない、他社に引き抜かれるといった悩みを抱える企業においては、従業員エンゲージメントの土台となる「関係の質」が起因していると疑うべきでしょう。エンゲージメントの高い組織は、報酬制度を単なる金銭的インセンティブではなく、組織と個人の相互理解を深めるコミュニケーションツールとして活用しています。

まずは報酬制度の透明性を高め、社員と共に考える場を設けることで、組織の好循環を生み出す第一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。